簡単な会話版はこちら → 法律的な言葉と一般的な言葉のズレ-武力衝突と戦闘行為(会話編)
「武力衝突」と「戦闘行為」一般的には対して違いの無い2つのフレーズが今話題となっている。
自衛隊の派遣先で「戦闘行為」があったかどうかが議論となっているのだ。
もし「戦闘行為」があったとなれば違法であり、「武力衝突」であれば合法であるとされる。
「9条上問題になるから『武力衝突』使う」 稲田防衛相:朝日新聞デジタル
一部では「言葉遊び」や「都合の良い言葉のすり替え」として揶揄されているが、事実としてはどうなのだろうか。
戦闘行為での活動を制限する法律
まず、「戦闘行為」の定義と関連する規約については、重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律にて定義されている。
周辺事態法
(重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律).. 3 後方支援活動及び捜索救助活動は、現に戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう。以下同じ。)が行われている現場では実施しないものとする。ただし、第七条第六項の規定により行われる捜索救助活動については、この限りでない。
上記条文によると、戦闘行為とは国際的な武力紛争の一環を表すものである。
稲田防衛省の意図としては上記と明確に区別するために、国際的ではない武力紛争 → 「武力衝突」と表現したのだろう。
これをもし、ごちゃまぜに使ってしまえば法律的な問題が生じてしまう。
安直に「戦闘があった」と言ってしまえば、「我々は犯罪を犯しました」というようなものである。場面によっては、買い取ったものを「奪いました」と表現するくらい、危うい行為かも知れない。
言葉ひとつで日本の動きが決まる国会で適切な言葉を選ぶのは、法律をつかさどる政治家として当然の責任である。
本来問うべき問題は、言葉ではなくその解釈や定義ではないだろうか。現状の政府が「戦闘行為」をどう解釈しているのか、その解釈をあなたは正しいと思うかどうか、これを次の選挙の投票の材料とするなり、間違った解釈として声を上げるなりするのが健全な行動だろう。
どこからが「戦闘行為」でどこからがそうでないのかは現状たしかに曖昧である。
しかし少なくとも、一般的な「戦闘があった」と法律的な「戦闘行為が発生した」 とは大きく意味が異なるものであることは理解しておく必要があるだろう。
ことば遊びとして批判するなら、責められるべきは稲田さんではない。「戦闘行為」をわかりづらく定義した法律の方である。
(この法律を作ったのは自民党なんだから責められてしかるべきだと言われてしまうと何とも言えないが・・)
憲法第9条における「戦闘行為」
ちなみに、戦争関連で必ず話題になる日本国憲法第9条においてはどう定義されているのだろうか。
2. 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。 日本国憲法第9条
憲法第9条においては「国際紛争を解決する手段としての武力行使」を放棄している。解釈にもよるが、国際的な紛争に限定しているようにも読み取れる点で、かなり「戦争行為」の考え方にも近い。
どこから「国際的な紛争=戦闘行為」として、どこからその他の戦闘行為とみなすのか。これは今後の日本の動き方すら決めるかもしれない重要な要素でもある。
この境界線を問う議論こそ日本の将来に必要なものだろう。
これを「くだらない言葉遊び」と批判しまうのは、少し本質と外れた批判に見える。
参照
重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律